カタン、コトンと籠の中で揺られな がら、姫は緊張を感じていた。
 もうすぐ自分は嫁ぐのだ・・・・・・。
 ―――ガタンッ


自由の鳥  君の翼  弐


「何事ですっ」
 いきなり籠が揺れた。姫は外をのぞこうとするが、はしたないと止められ、事情を把握しようにもできない。
「盗賊のようです、どうか姫様はそのまま中に・・・。必ず無事に送り届けます」
「なんということ・・・・・・」
『こちらが―――の若君の嫁御様の嫁入り行列と知っての行いか!!』
 外から聞こえてくる声だけが、姫の心を揺らす。これで引いてもらえるとは思えない・・・。
『それが何だ!』
『やめろ』
 誰だろう。誰かの静止が入った。
『お頭っ?!』
『花嫁が乗っていたとは知らなかった。姫君にすまなかったと謝っておいてくれ』
「何じゃ・・・・・・?」
『お頭・・・!』
『引くと言っている』
 仲間内でも恐れられているのか、それとも信頼されているのか。どちらかは知らないが、どうやら無事に引いてくれたらしい。
「姫様、大丈夫でございまするか?」
 少しだけ簾が上がる。
「無事じゃ」
 そのとき。
 チラリと見えた人影。
(月の君―――?!)
 姫は口元を押さえた。
「姫様?」
「何でもない。気にせずともよい」
「は」
 下ろされていく簾・・・。ふと瞳が合った。
 もう何年経ったか。だが、あの瞳の色だけは変わらない。何者をも捕らえるような鋭い漆黒。
 その昔。池に溺れた自分を助けてくれた、名も知らぬ彼の・・・。
『貴女は太陽、私は月だ』
 途切れてゆく意識の中で聞こえたあの声。それ以来、姫はその男のことを“月の君”と呼んでいた。無論、あの後会えはしなかったが。
「何故このようなところにおるのじゃ」
 その呟きは誰も知らない。

「そうか・・・。今日は彼の日であったか・・・」
「お頭!何故止めたのです!そりゃあ・・・花嫁行列とは知りませんでしたが」
「いや・・・。何故だろうな。気まぐれだ」
 くつくつと笑う彼に、手下の盗賊達もやれやれと肩をすくめる。
「お頭は女には弱くていけねぇ」
「それがお頭のいいところではあるがなぁ」
「女子供まで手をかけるような卑劣者になった覚えはないな」
「そりゃあそうでさ」
 ひとしきり笑った後、“お頭”がふと真面目な顔になる。
「―――おい、右近」
「何です、お頭」
「当分任せるぞ」
 そんな発言も誰も咎めず。
「まぁたお頭の気まぐれですかい」
「お頭だって御尋ね者なんですからね、自覚してくださいよ?」
「わかってるわかってる。お前らに言われるようじゃあ俺も終わりだな」
「そりゃひでぇ」