あなたとわたし。
ともだち。 |
(わかんない……) 菜々花はじぃっと教科書を見つめた。 「…何やってんの?」 「真菜ちゃんっ」 ぱぁっと菜々花の顔がほころぶ。その瞳は救世主とばかりに真菜を見つめる。真菜花が苦笑した。 「どこ?」 ワンパターン、なのだが本人はおそらくわかっていないのだろうと真菜は思う。今にもどうしてわかったのと声をあげそうな菜々花を制し、菜々花の隣の席に腰掛ける。 「ここー」 「あぁ」 書き連ねられた数字。真菜花は説明を始める。菜々花や真菜花のクラスは文型だが、真菜花は数学が得意なのだ。 「あ、そっか。うん、わかったー」 何度かうなづいてにっこり笑う。 「ななー」 ぱちぱちっと菜々花が瞬きした。真菜花が振り向いてぎょっとする。そちらを覗こうとする菜々花に、真菜花は慌てて話しかけた。 教室にざわざわと喧騒が走る。 「ほ、他にはわからないところないの?」 「んー…」 菜々花の視線が教科書に戻ったのを見てホッとしたのも束の間。 「なな!」 再び「彼」の声が聞こえてヒヤッとする。菜々花が顔を上げてそちらを見てしまった。 「あ、もときくん」 「っ知り合い?!」 真菜花があげた悲鳴にも近い声に、菜々花がきょとんと首をかしげた。 「うん。真菜ちゃん、もときくんのこと知ってるの?」 その仕草はとてもかわいらしい、のだが。 「知ってるも何も…」 ちらっと元樹を見る。 「なーな。辞書。辞書持ってるか?」 痺れを切らしたのか、窓の桟に頬杖をついている元樹が声をかけた。 「うん。何の辞書?」 「…何の辞書って…和英…」 「わかった、ちょっと待ってね」 菜々花は机の横にかけてあったバッグからそれを取り出した。 「なな、電子辞書持ってねぇんだ?」 「うん、こっちの方が好きだから」 親しげに話をしているふたりを、真菜花は訝しげに見ていた。 「昼休み返したんでいいか?」 「うん」 真菜花が別段止めようともしないので、二人の会話は続く。おそらく真菜花以外にそれに入っていこうとする勇者はいないだろう。 「ん、じゃあな」 「うん」 ばいばい、と少し窓から身を乗り出して手をふる菜々花に落ちるぞ、と声をかけて元樹は階段を下りていった。 「…どういう関係?」 「…え、と…」 ほんの少し、うつむいた菜々花の頬が赤い。真菜花はまさか、と同時にありえない、と思う。 「…まなちゃん、耳、貸して?」 「はいはい」 真菜花の耳に、おそらく最も恐れていたであろう言葉が投下される。 「かれし」 「……」 真菜花は思う。隠したいんだったらその真っ赤な顔をどうにかしなさいよ、と。言ったら言ったで大パニックを起こすだろうから、黙っていてあげるけれど。 「昼休み、会うのね?」 「え? うん」 「そう。じゃあ、私も行っていいわね?」 有無を言わせない笑み。なんだかわからないが、菜々花にはうなづくしかできなかった。 |