「しっんじょーせっんせーっ」
「だわぁっびっくりしたっ!! お前らいきなり全員で現れんなよっ!」
すると先ほど声をかけた夜宮がにっこりと笑った。
「センセー、全員じゃないですよ」
「・・・前言撤回、天原と大鳥を除いて、全員」
こめかみをヒクつかせながらかろうじて拓也が笑う。
「んで? 何の用だ? お前らのことだから授業のことじゃねぇだろ」
「・・・ちょっと失礼すぎません? 事実とはいえ」
そんな
僕らの裏事情
「え? 補習のご褒美に皆に何か奢るって約束したんですか?」
職員室の机に片肘を突いた姿勢の拓也を、未来はまじまじと見つめた。
「ま、いいんですけどね。可愛い教え子ですから」
「・・・生徒数少なくてよかったですねぇ」
「そうじゃなきゃ俺だってこんなこと言いませんって」
「でしょうねぇ」
そう、彼らはあの日の約束をきっちり取り付けたのだった。
「えー、ホントにいいんですか? 焼肉で」
「いいぞ、確かにがんばってるからなー。ただし、他のヤツには他言無用、いいな? お前らだけ特別なんだからな」
「じゃ、遠慮なく。ありがとーございまーす」
楽しそうな彼らを見ていると、やはりこちらも嬉しくなる・・・それが教師としての性なのか単なる性格なのかわからなかったが。
「天原・・・お前、特にちゃんと食っとけよ、体力なくしては試験なんてものは乗り越えられないぞ?」
「・・・・・・嫌味ですか?」
彼らを止めなかった事に対して。
そんなつもりはなかったのだが、この気丈な娘には何故か逆らえない。
とはいっても、彼女も根本から否定してくるわけではなく、むしろ教師には礼儀正しいし尊敬している事も伺える。だから逆に性質が悪いとも言えるのだが。
「だって美空ちゃん、焼肉に来たのにご飯とお味噌汁しか食べてないじゃんっ」
ちゃっかり平良の隣に陣取っている朝子が斜め前から身を乗り出してくる。
「…でも食べてるでしょ? それに悠輝もそうそう変わらないわよ」
半ば押し込まれた形で美空の隣には悠輝がいる。
「悠輝君は多少食べてるもんっ! もしかして美空、お肉嫌い?」
「…そういうわけじゃないわ」
何を思ったか悠輝が箸を置いて口を開いた。
「……美空は」
「うるさい」
だがそれはほとんど声にならずに終わる。
「…今ので、悠輝君が何言うかわかったの?」
「言うことなんてひとつしかないわよ」
美空は平然と味噌汁を啜った。
「油苦手だから、美空」
「っ、悠輝!」
慌てた美空とは対照的に、悠輝は平然としている。そして近くにあった網の上からいくつか肉を取り、美空の皿に入れる。
「呼ばれてるんだからすこしはいただきなよ」
「……」
「気持ち悪くならないだろ?」
舌打ちしそうな勢いの美空だったが、諦めたのかため息をついてそれを口に運んだ。
「やっぱり、美空に勝てるのは悠輝君だけだね」
「朝子!」
「あ、これ食べないんだったらもらうよ、朝子」
平良とは逆隣に座っている麗未が朝子の皿から肉をとっていった。
「あぁっ!」
「こら、お前ら喧嘩すんなよ」
一応教師という立場にある拓也は注意する。
「大丈夫大丈夫、これが普通だもん俺ら」
だが、それも一言で返されてしまうのだから悲しいものだ。
「……あぁ、知ってるけど、な」
「あーぁ、夏も終わりだなぁ」
ふと、夜宮が漏らす。
「秋かー。運動会かー。またあの地獄の日々が始まるのかよー」
過疎化の進んだ学校での運動会は、生徒数が少ないために必然的に団体競技が多くなる。ほぼ出ずっぱりと言ってもいいのだ。
「あれはきついよねぇ」
「私平良君と一緒なんだー」
朝子が嬉々として言えば、相変わらず箸を動かしている麗未が一言で返す。
「知るか」
「そりゃあ、平良がいなきゃお守りがいなくなるものね」
美空が口を挟んだ。
「錘?」
「……」
だが朝子にはよく伝わらなかったらしく、首をかしげている。平良はそんな朝子を苦笑して見守っていた。
「えーなに、どういうこと?」
「…忘れて」
「えー」
相変わらず、仲がよすぎるほど仲がいい。半分家族みたいなものなのかもしれない、と拓也は思う。もう何年一緒にいるのか、数えるのは簡単だが想像するの
は難しい。羨ましいとさえ思う。たとえ会えなくなっても、彼らはこの全員でひとつの仲間なのだろう。それこそ、永遠に。