「お、美空、朝子! こっちだこっち」
ひらひらと手を振ってくる夜宮。
「ちょっと、はじめに場所言っていてもらわないと困るわ!」
「・・・・・・言ってなかったか? 悪い」
そ
んな僕らの裏事情
「じゃあとりあえずかんぱ〜い」
「何によ」
美空の冷静な言葉に、コップを持っていた全員が肩を落とす。
「・・・美空、そうやって気分を盛り下げるのはやめろよ・・・」
「そういうつもりはなかったんだけど」
「理由なんていらねぇって。―――どうしてもいるって言うなら・・・」
バスケ部の県大会出場と吹奏楽部の成功に。
「カンパイ!!」
夏とはいえ、あたりはすでに薄暗い。海がキラキラと輝いた。
まだ祭りは現在進行中。なぜか夕食まで用意されている。
「イカ焼き買ってきたよー」
「美空、鯛めし残ってるー?」
「お、お前らいいもん食ってんじゃん」
地元のお祭り、といえば過疎化の進んだこの地域、下は保育園生から上は中学生まで、児童学生は当然のごとく借り出される。つまり、そこにはその学校で教
えている教師も来ているというわけで。
「あ、先生何か奢ってよ」
自分たちの副担任である拓也を見つけた彼らのその笑みは、“にっこり”ではなく“ニヤリ”だった。
「お前らなぁ、教師に集るなよ。金ないんだぞ」
「奢ってくれたらおすそ分けするからさー」
それでは全く意味がない気がするのだが。
それでも諦める様子のない生徒達に困ったのか、拓也はこちらを気にも留めずに鯛めしのおにぎりをお箸で口に運んでいた美空へと視線を向けた。
「コイツら止めろ、天原」
すると餌をばら撒かれた魚のように生徒たちの声が飛ぶ。
「わー生徒に頼ってるよー」
「駄目じゃん、センセー」
「お前らなぁ・・・!」
だが、口の中に残っていたご飯を飲み込み、ため息をついて美空が放った言葉は。
「・・・諦めてください」
…のひとことで、拓也はがくりと肩を落とした。
「天原ー!」
「先生残念、美空も奢って欲しいって」
「そんなこと言ってないわ」
これが日常だった。お祭だとか、夏だとか。そんな事はたいした問題ではない。
「お前らはハメはずしすぎだ」
「ヤダなぁ先生。それが俺達のいいところじゃん」
「―――まぁな」
遠くでアナウンスが聞こえた。
『これより花火大会を―――』
「お、花火始まるって」
「えー、もうそんな時間?」
「平良君、一緒に見ようよー」
そんな朝子の誘いに、平良も微笑む。
「もちろん。ここはうるさいから違うところへ行く?」
「こらそこ!抜け駆け禁止!!」
「いぃぃいいい痛いー!」
髪を一房つかまれ、進むに進めない。
「今年は中学最後だろ?いなくなるなよ」
夜宮が苦笑して朝子の頭をぽんぽんっと叩いた。
「つーかそう言ってたはずだろ、平良」
「うん、聞いてたけど?」
承知で言っていたのか、と一瞬彼を恐ろしく思う。それを知ってか知らずか―――平良の性格からして前者だろうが、平良は平然と付け足した。
「冗談だよ」
少々肩を落とす一同。
突然、パァン・・・ッと空に色とりどりの。
「あ、始まったねー」
一斉に空を見上げる。花火だ。
「桜花、音怖くないのー?」
「大丈夫だし!麗未、失礼だよっ」
けらけらと笑う声。感嘆するため息。
美空も微笑む。その隣には、当たり前に悠輝がいた。
「綺麗ー」
「夏の風物詩だからな」
「雅也、それ意味判って言ってるか?」
「おい、俺だって一応受験生だぞ!」
「関係ない関係ない」
弾む会話とほころぶ笑顔。
「いいから花火見たら?」
「後でかき氷食べに行かない?」
「あ、いいねー」
「お前らは花より団子か!」
「見てるじゃん、“華”」
笑い声は、絶えない。美空はそんな様子を見て微笑む。本当に飽きない。
「えー・・・まぁ、これが中学最後の夏祭りだけど―――夏はまだこれから・・・ってことでさ、今度皆でバーベキューしようぜ!」
一部の人の間でそういうアイデアが出たらしい。
「夜宮のおごりー?」
「そんなわけないだろ!日にちは今度決めるってことで。絶対参加な」
どうせ一週間くらい前にならないと決まらないのだろうが。
「今年の花火長いなー」
「でもそろそろ最後っぽくない?」
「身乗り出すと海に落ちるぞー」
「馬鹿にしないでよー!」
にぎわう祭りの喧騒の中で、そこは一際華やいでいた。