「ごめんなさい・・・っ」
「いいのよ、大丈夫。胸を張りなさい、精一杯頑張ったのだから・・・」
だから、泣かないで。
そ
んな僕らの裏事情
結局、“良い結果”は残せなかった。
帰りのバスの中。誰も話さなかった。ほとんどの人が泣き腫らした目をしている中、ただひとり・・・美空だけが涙の一粒も見せなかった。
カチャリ・・・と部屋のドアを後ろ手に閉めた。
「お帰り」
「・・・ただいま」
顔を上げると、悠輝がいた。“残念だったね”とか“頑張ってたよ”みたいな言葉はなかった。
「お疲れ様」
美空はそれに返事をしようとせず、ベッドにぽすん、と座った。
「もう、泣いてもいいよ」
驚いたように美空が悠輝を見た。
「ずっと、泣けなかったんだろう?」
部長として・・・そして、“皆が頑張っていた”事実を知っているからこそ、自分が泣いては、皆が自分自身を責めてしまう。
きっと、美空が一番最後の最後まで練習に励み、頑張ってきたことを、皆知っているだろう。そして、一番この大会に思い入れが強かったことは周知の事実
だ。
だからこそ、自分が泣いてはいけないと。
「ひとりきりで泣く必要なんてないんだよ」
「泣かないわ・・・。大会は最後だけれど・・・これで引退じゃないもの」
まだ、学校行事や地域行事で演奏する機会はあるから。そう、美空は言っているけれど。
「溜め込むのは良くないよ」
美空に近寄り、その頭を優しく抱きしめる。こうすれば、見えないから。
「―――っ」
溢れ出してきた涙が、止まらなかった。
「さぁ、いつまでもくよくよしている暇はないわよ! これで終わりじゃないんだからね」
「先輩・・・・・・はいっ」
美空は微笑んだ。この仲間と出会えたことが嬉しい。
「先輩・・・」
「・・・? 何?」
由宇夏が困ったような嬉しそうな複雑な笑みで美空を見つめる。
「その笑顔、反則ですよ・・・・・・」
「は?」
わけがわからず問い返す。
「私が男だったら絶対惚れてますっ」
・・・・・・前言撤回。
「…さっさと練習しなさーいっ!!」
「きゃー!」
「美空先輩が切れたーっ」
まったく・・・と腰に手を当てながらそれぞれ違う教室へと散っていく部員達を見送り。
「さぁ、私も練習しようかしら・・・」
スッと窓を開けた。その先には体育館。ダンダンッと少しだけ響いてくる音。今体育館を使っているのはバスケ部だ。
美空は窓の桟に手を置いた。
「・・・・・・ありがと、悠輝」
口に出したら恥ずかしくなって、美空は慌てて窓を閉めた。
「美空ー? 何やってるのー?」
ちょうど入ってきたらしい朝子が問いかけてきた。
「何で閉めるの?」
「・・・何でもないわよ」
顔が赤いかもしれない。だが、朝子は気付いているのかいないのか。何も言ってこないのでとりあえずよしとする。
「そういえば・・・もうすぐ、総体だねー」
「そうね。そういえば、平良もレギュラーだったわね?」
「う・・・ん。見に行くよ、もちろん」
朝子が美空の手を取り。
「一緒に行こうねー。悠輝君も出るんでしょ?」
「さぁ。どうなのかしらね」
悠輝も平良もバスケ部のレギュラー。最後の大会は美空たちだけではない。