「・・・・・・ッ」
 眠れない。どうすればいいのだろう。
 コンコンッ
「やっぱり、まだ起きてる」


そ んな僕らの裏事情



「早く寝ようと思っても眠れないの」
 言い訳じみた言葉ではあるが、それは事実だった。
「大丈夫だよ」
 悠輝は美空の横になっているベッドに腰掛けた。
「・・・何がよ」
 美空も起き上がり、悠輝の隣に座る。
「上手くいくよ」
「そんなに簡単に言わないでよ!」
 あぁ、悠輝に八つ当たりしても仕方がないというのに。
「もう少し肩の力をぬいて」
 だが、悠輝は気にした様子もなく苦笑している。
「どうしよう・・・・・・」
 やはり、半分頭が眠っているのかもしれない。弱音を吐いているんだなぁと思っても、美空はその言葉を止められなかった。
「間違えたら・・・」
「あれだけ練習してたじゃないか」
 悠輝が肩を引き寄せてきたが、今日は振り払う気にもなれなかった。むしろ、近くにある温かさが心地良い。
「それでも、間違えることはあるわ」
「間違えないか心配するより、間違えないように努力するほうが、よっぽど楽だと思うよ?」
「こんな夜中に吹いたら近所迷惑よ・・・」
「演奏するだけが努力じゃないよ」
 心の奥で、不安が渦巻いている。それが、悠輝といることで少しずつ少しずつほぐれていくようだった。
「大丈夫、上手くいくよ」
 コトン、と美空の頭が悠輝の肩に落ちる。どうやら、やっと眠りの浅瀬にたどり着いたらしい。ずっと気を張っていたようだから、ここからはすぐ寝付いてし まうだろう。
「大丈夫」
 悠輝は美空の髪をゆっくりとなでた。
「大丈夫」
 もう少し時間が経ったら、寝かせてあげよう。だけど、それまでの時間だけ、こうしていられたら・・・。それはおろかな、自分の願望に過ぎないけれど。

「ん・・・・・・」
 気がつけば朝だった。いつの間に寝たのだろう。それに気がつかないほど、自然だった。起き上がる。
 一瞬、ドクンと鼓動が高鳴った。
 今日は。
「本番・・・・・・」
「おはよう」
 ガラガラッと窓が開いて。
「悠輝・・・・・・」
「よく眠れた?」
「・・・まぁね」
 なんだかちょっと悔しくなって、眼をそらす。
「頑張って」
「え・・・」
「今日。観にいくよ」
「は?!」
 来る気なの?本気で?そう目で問いかける。
「去年も行っただろう?」
 さらりとかわされて、美空は反論できない。
『美空ー!』
「ほら、呼ばれてる。また後でね」
 そういって、さっさと窓から去っていく。

「緊張するよーっ」
「皆してるわよ」
 半分イラつきながら美空が言う。
「大丈夫ですって、朝子先輩! 私達も頑張りますっ」
「そ、そうだよねぇっ」
「後輩に励まされてどうするのよ」
 自分も悠輝に励まされてはいたのだが。
「ところで朝子先輩、平良先輩も来るんですかー?」
 にっこりと笑って言う由宇夏。
「うん。来るって・・・言ってた」
 頬を赤らめてつぶやく。
「まぁ、悠輝先輩は来るとしてー」
「ってちょ・・・ッ」
 何故決定事項なのだろう。確かに来るけれど。
「あの悠輝先輩が来ないはずはありません!」
 そう断言する由宇夏に、美空はそっとため息をついた。
「皆、そろそろ移動しましょう」
 顧問の声に、皆の笑みが引きつった。
 ドクン。
 さぁ、運命の時―――・・・・・・。



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