あなたとわたし。

しゅんかん。
 変な臭いがする…菜々花は首をかしげながらも本を戻すために図書館の一際奥へと足を進めた。
「―――あ?」
「え……」
 声がして、菜々花は俯き加減だった顔を上げた。ばちっとその人と目が合った。
(おとこのこ…?)
 男の子は口から煙草を離して息を吐いた。あの臭いだ、と菜々花は思った。当然のことながら、図書館は禁煙。けれど、その男の子はすごく―――。
(な、なんか、怖い……)
 いかにも不良、である。不機嫌そうな顔でこっちを睨みつけてくる。
 気にしないようにしようと思って手に持っていた本を戻す事にした。男の子は何も言わない。菜々花の事も気にしていないようだ。
(でも…やっぱり、たばこ…)
 意を決して、菜々花は男の子に向き合った。彼はズボンの汚れも気にせず床に座っているので、立ったままの菜々花は見下ろす事になる。
「…あの」
「あ?」
(や、やっぱり、怖いよぅ…っ)
 瞳が潤んできた。
「…んだよ」
 びくっと菜々花の肩が揺れた。
「あ、の……たばこ…」
「は?」
「ここで、たばこ、吸わないでください…」
 だんだん声が小さくなっていく。菜々花は俯いた。
 ざっと立ち上がる気配がして、菜々花はハッと顔を上げた。
(お、おっきい……)
 仰ぎ見なければならないほど、身長の低い菜々花には彼は身長が高かった。その雰囲気も相成って、ますます大きく見える。
 彼が近づいてきた。菜々花に近づいて、手を振り上げる。
 菜々花はぎゅっと目を閉じた。
(た、叩かれる…っ)
「…悪かったな」
 だけど、痛みはなくて、かわりにくしゃっと髪をなでられた。
(え……?)
 彼、は菜々花が目を開けたときには目の前にいなくて、振り向くと煙草を消して本棚の間から出て行くところだった。
(い、いい人…なのかも…)
 かぁぁっと菜々花の頬が赤くなった。
(わ、わ、わ…)
 ばさばさっと菜々花の手に持っていた本が床に落ちた。
(好き、なのかな……? 好き、かも…)
 しばらく菜々花はそこから動けないでいた。

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