「うん、やっぱり」
 悠輝はにこりと微笑んだ。美空はその先の言葉を予測して、ため息をついた。
「やっぱり、冬服のほうが似合うよ」
「夏になったら夏服が似合うっていってる馬鹿には言われたくない」
 さぁ、今日から新学期。


そんな僕等の裏事情



「み・そ・ら〜〜!!」
「ゲッ」
 後ろからかけられた声に、美空は思い切り顔をしかめた。振り向かなくてもわかる。それが誰なのか。長い付き合いなのだから。…あまり認めたくないけれど も。
 美空ははぁ、とため息をついた。
「おはよ、朝子」
 言った瞬間、美空は一歩横にずれた。
「うひゃあああああっ」
 ガバッと抱きつこうと―――した体がよけられて前のめりにこけそうになる、朝子。
「相変わらず馬鹿ね」
「相変わらず鋭い反射能力で・・・」
「アンタが馬鹿なだけでしょ、単純馬鹿」
 ふふん、と美空が笑う。朝子は唇を尖らせている。
「おはよう、悠輝、美空」
 悠輝は急に隣に立った彼に驚くこともない。やわらかい微笑を浮かべた、平良。
「あぁ」
「あら、おはよう」
 いつもどおりの答えに、平良は微笑んで、すねたままの朝子に向き直った。
「朝子。おはよう」
「平良くん!!」
 美空の親友・堺朝子と、悠輝の親友・高峰平良。
 こうしていつものように四人がそろう。

 校門をくぐったら、そこは広いグラウンド。桜の花が風に載って舞い散っている。
 新入生歓迎の挨拶、とやらをやらなければならない平良は悠輝を引っ張って先に行ってしまった。何故わざわざそうする必要があるのか美空も朝子も、悠輝さ えもわからなかったが、誰も止める人はいないので、結局そのまま連れて行かれた。
「あー、新学期早々なんで長ったらしい校長の話聞かなきゃいけないのよ」
「まぁまぁ、美空」
 のんびりした朝子の声。それに美空がそうね、なんて笑うはずもない。
「アンタになだめられたら余計ムカつく」
「ひ、ヒドイ・・・・・・」
「泣きまねしても駄目」
 口調の強くてハッキリした物言いの美空と、口調の弱くておっとりした物言いの朝子。
 自然と漫才になってきているのだが、すでに周りは慣れている。何人も何人もゆっくり歩く二人の周りを通り過ぎていくが、普通に『おはよう』と挨拶してい くくらいだ。
「それで。春休み中はどうだったのかしらねぇ」
「ほぇ?」
 本当にわからないのか、それとも演技なのか、首をかしげる朝子を横目に、美空は拳を握った。
「今すごい手が出そうだった」
「手は嫌ーっ!!」
「・・・・・・足は?」
 そういわれた瞬間、そそくさと逃げていく朝子。
 ふん、と仁王立ちした美空の背に声が覆いかぶさってきた。
「美空せんぱーい!!」
 がば、と後ろから抱きつかれるが、今度はよけたりしない。彼女のことも、もちろん声だけでその存在が誰かなんてわかる。
「はいはい、おはよう」
「おっはようございます!!朝子先輩どっか行っちゃいましたねー」
「そうねぇ。春休みの結果が聞きたかったんだけど」
 意地の悪い笑みで笑う。
 そして頃合を見計らって、そろそろ離れなさい、と後ろを向た。とはいっても、聞いてくれるような相手ではない。部活の後輩である暮牧由宇夏は、美空を尊 敬しているのか懐いているのか知らないが、簡単には離れてくれない。
「で、美空先輩はどうだったんですか?」
「私?そうねぇ。普通よ?」
 美空から離れて隣に立った由宇夏は美空の顔を覗き込んだ。
「悠輝先輩とは?」
「は?」
「何にもなかったんですか?」
「・・・何があるの?」
 由宇夏はつまらなそうに顔をゆがめた。
「先輩。とられちゃいますよ、誰かに」
 いたずらっぽい目で美空を見る由宇夏。その様子はとても楽しそうだ。
「はぁ?」
「悠輝先輩結構かっこいいし。クールだし。私が取っちゃおうかなぁ、先輩から」
 そういう瞳は、本気なのか、冗談なのか。
「あのねぇ。私と悠輝は何もないわよ?」
 いつも言っているけど、と続ける。だが、由宇夏は聞く様子はない。
「先輩、駄目ですよ!自分の気持ちには正直にならなきゃ!」
 まじめに言っている分、なんだか怖い。
「だから。ただの幼馴染みにどう正直になれと?」
「先輩なんか違ってます!」
「何が」
 由宇夏はふぅとため息をついた。
「先輩、天然って言われません?」
「・・・・・・はぁ!?」
 心底心外だと言うように目を丸くする美空。
「せんぱぁい。可愛いですねー」
「はぁ!?」



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