「―――美空?」
ガラガラッと窓を開けて、目に見えた光景。悠輝はふっと笑みを漏らした。
何度目だろう。彼女が机に座ったまま寝ているのを見たのは。
悠輝はいつものようにボスッと美空のベッドに腰掛けた。浅い眠りだろうから、すぐに起きるのはわかっている。それは十分耐えられる時間だ。いや、例え時
間が長かろうとも、彼女を見ていることに飽きは来ないのだろうけれども。
そんな僕らの裏事情
「たいらくんっいっしょにかえろっ」
「いいよ、あさこちゃん」
「・・・みそら?」
「・・・・・・つけるわよっ!ゆうきっ」
手を繋いで仲良く帰る二人に、美空は微笑みを浮かべた。―――黒い微笑みを。
そんな、昔。
――――――そして、今。
「―――ん・・・・・・っ」
何度か目をしばたいてゆっくりと瞳をあけ、机から起き上がる。そのままいすに背を預けると、ぎしりと音が鳴った。美空は長い黒髪を掻き揚げた。少し肩が
痛い。
「あー・・・やだ、また寝て・・・・・・・・・」
ぽそりと言葉を紡いで、ハッと気付いた。背中に感じる視線。美空は嫌な予感に苛まれながら、恐る恐る振り向いた。
「悠輝っ!!あ、あん・・・あんたっ!!ま、また窓から入ってきたわね!?」
自分のベッドに座っている笑顔の幼馴染み。どうして、こういう時にばかりこの男は入ってくるのか。ただの偶然だとはわかっていても、心の底は納得してく
れない。いや、納得したくない、というのが本当のところだろうか。
「無用心だよ、鍵もかけないで」
「うるさいっ!それとこれとは別よっ!!入ってくるほうが変よ!!」
美空の顔は真っ赤。だが、悠輝は微笑を浮かべるだけ。
―――天原美空。中学3年生。そして、大鳥悠輝、同じく中学3年生。
二人は幼馴染みで、家も隣りなら部屋も隣り、幼稚園から今までずっと同じクラスという腐れ縁だ。
そもそも、二人の住むこの地域は過疎化に入っており、子供の数が少ないため、ずっと一クラスだったのだが。
「な、何よ・・・」
「別に?可愛いなあって思っただけだよ?」
「っ、馬鹿!!」
美空が近くにあったノートを投げつける。だが、悠輝はそんなことなど予測していたかのように楽々と避けてみせた。
バンッと壁にぶつかるそのノート。それが、ますます美空に悔しい思いをさせる。いつもいつも叶わない。この、幼馴染みには―――・・・・・・。
「危ないなぁ」
「うるさいっ」
プイッと悠輝に背を向けた。だけど、それは本気で怒っているわけではないと、悠輝もちゃんと知っている。
「どんな夢見てたの?」
「・・・別に」
遠い昔の夢だった。あれは、小学生の頃。たしか、2年生の頃だったか。
「・・・・・・付き合い、長いわよね」
「?・・・そうだね」
朝子と、平良。そして、自分と悠輝。
自分と朝子は“親友”で、悠輝と平良も“親友”で。いつの間にか、平良と朝子は付き合い始めた。だけど、自分と悠輝は変わらない。それが普通だと思って
いる。
「中学に入ってからだったわね。あの二人が付き合い始めたのは」
「そうだね」
クス、と悠輝は微笑んだ。彼女は気付いているのかいないのか。自分が“夢の話”をしていることに。
「昔から、あの二人を見ているのが好きだったね、美空は」
「・・・そうね」
―――そう、昔から。
二人が一緒に帰っていれば、後をつけてみたりとか。
でも、そんな時、いつも彼が―――悠輝が一緒だった。それが普通。それが日常。
そして、これからも―――・・・。