1.恋に落ちた瞬間
高校に入って、どこかにいい男でもいないかなぁなんて探してみる。だけど
人生なんてそんなもの。
「……いるわけないし」
とりあえずため息。あぁ、魂まで出て行きそう。
「杞優……。いい加減にしなよー?きょろきょろしすぎ」
「だってさー」
「だっても何もない!」
あっさりすっぱり一刀両断。うぅひどい。
中学のときからの友達の永山つばさ。これでも彼氏持ち。しかもこの高校の先輩で、彼氏を追ってこの学校に入ってきたツワモノ。……くそぅ。
体育館は椅子でいっぱいだから、運動場でクラス別に並ぶ。つばさとは同じクラスだったの、ラッキー。
―――ドンッ
「杞優、危ない!!」
ぶつかった後に危ないって言われてもっ!
って、そうじゃなくて!
「す、すみませんっ」
「いえ。大丈夫ですか?」
あたしがぶつかった相手は背の高い男の人だった。優しそうな人。きっと笑顔が素敵なんだろうなって思えるような。
あれ、何だろ。なんか……よくわからないけど、変な感じ。どきどき、する。
「あ、あの? 大丈夫?」
「は、はいっ! もちろん大丈夫です!」
やばい、ぼーっとしてた! 変な人に思われるっ!
「顔が赤いようだけど、熱でもある?いくら今日が入学式だからといって、無理しないように……」
眉を寄せた、本当に心配そうな顔。
あぁ、優しい人だなぁ・・・・・・って、あれ? こ、この人・・・・・・先生? 制服着てないよ! うわぁ、入学早々何やってんだ私っ!
「だ、大丈夫? なんか、今度は青いような……」
「気にしないでください、自分の世界に入ってるだけなんです。失礼します」
無理矢理な笑顔で無理矢理に会話を打ち切るつばさ。ぺこりと会釈してあたしの手をとった。
「つ、つばさ! あぁっ失礼しますぅっ」
腕をぐいぐい引っ張られて。さ、さすがは運動部。力あるなぁ……。
ってあぁっ、先生が苦笑してるー! うわぁ、顔覚えられたかも?
「ったく、あんたって子は!」
充分に先生と離れた時、つばさはあたしに怒ってますの顔を向けた。
あや、つばさちゃんってば、ご立腹? あたし何かしたかな……。
「何先生に対して失礼な態度取ってるのよ!」
あ、やっぱりあの人先生だったんだ。だよねぇ、保護者っぽくなかったし。
「だってさぁ」
「うっわ、嫌な予感」
そういいながらあたしが言うのを止めようとしないんだから、つばさってばいい人っ! 顔は本気で嫌がってるようにも見えるけど、本当に嫌なことなら何が
何でもやめさせるもんね、つばさは。
「だってさぁ! なんか、キラキラと……!」
「はぁ?」
すごい怪訝そうな顔をしてるつばさ。まぁ、失礼な。
「こう、なんていうかなぁ。光がきらきらーってあの人の周りをさぁ」
「全っ然見えない」
うわ、冷たっ。ひどっ。見えたんだって、本当にそんな風に!
「杞優って趣味変」
「悪かったね、変で」
そう言い返したけど、つばさは気にせず肩をすくめるだけ。
「素敵な先生がいてよかったじゃない」
「う、ん」
あれ? 何でだろ。喜ぶべきとこだよね、ここは。どうしてこんなに、切ないんだろ。
「杞優?」
「や……何でも」
変な方にどきどきしていく心臓。止めたいのに、止められない。どうして?
「……あのさぁ。あの人のこと好くのは良いけどさ、憧れまでにしときなよ?」
憧れる。憧れ。これは、憧れ?
「杞優!」
「え、な、何?」
つばさがため息をついた。
「やめてよ、恋に落ちましたとか」
「え、やだ、なにそれっ! あっちは教師だよ?」
笑ってみたけど、なんかうまくいかないのが自分でもわかる。違うよ、恋なんかじゃない。だってあれじゃん、漫画とかじゃよくあるけど、本当にあるわけな
いじゃん。
「別に、杞優のことに首突っ込む気はないけどさ、教師はやめときなね? いろいろ面倒だよ?」
「何で?」
「ほら、児童福祉法違反、とかさぁ」
は、はい? 児童……?
あー、つばさがうんざりした顔してる……。だって法律わかんないよ。ありすぎありすぎ。
大体つばさが頭良すぎなんだよっ! 私なんてぎりぎりで合格してんのに、つばさったら余裕なんだもん。
「とにかく、面倒なの! わかった?」
「わかったけどさぁ。そもそも、違うって」
なんていうか……憧れみたいな、ねぇ?
だけど。なんだか、ドキドキしてる。
でも。先生なんか好きになって、どうするっていうのよ。そう、相手は教師だし。……先生、か……。
そうだよねー。そんな簡単に運命の相手……なんてさぁ。しかもそれが、教師?
うん。あるわけ、ない。