あなたとわたし。

きょり。
「座れよ」
 菜々花は完全に困って立ち尽くしている。
「なな?」
 本棚と本棚の間。それは、結構狭かったりするのだ。人がふたり並んで座るには、断然狭い。
「あの、どこ…に?」
 既に壁に背を預けて座っている元樹は、困惑して菜々花を見つめた。たったそれだけで、菜々花は赤くなってしまう。
「ここ、来るか?」
 足を広げて、菜々花が丁度すっぽり入るくらいの場所を用意してやる。
 菜々花は首が取れるのではないかと思えるほどの勢いで首を横に振った。
(…だろうな)
 元樹は立ち上がった。菜々花の視線が追ってくる。そうすると、菜々花は完全に元樹を見上げる形になってしまう。
「なな、ちいせぇの」
 がんっと菜々花が衝撃を受けたのが目に見えた。
「違うもんっ! もときくんが、おっきいの!」
「ふぅん、なな、身長いくら?」
 にやにやして元樹が菜々花を見下ろす。
「…ひゃ、160…」
「160? なな160あんのか?」
 本気で驚いて尋ねると、菜々花は慌てて言った。
「あ、あるもんっ! 嘘じゃないもんっ」
(嘘じゃない、ねぇ…)
 元樹がじっと菜々花を見つめる。すると菜々花はもう一度嘘じゃないもんとつぶやいた。
「…ちなみに、160何センチ?」
「……え、と……ぴったり…」
(わかりやす…)
 明らかに嘘がバレバレだ。だがそれはそれで可愛いので言わないでおく事にした。
「も、もときくんはっ?」
 話を自分の身長から逸らそうとしているのだろう。あまり引っ張ってもかわいそうなので元樹はそれに乗ってやる。
「俺? どうだろ、最近計ってねぇからな。この前は178? 多分伸びたから、180あるかもな」
「え? まだ、伸びてるの?」
 心底驚いて、だがどこか瞳を輝かせて菜々花が問うた。苦笑して元樹は答える。
「そりゃ、まだ成長期だからな」
「そっかぁ…」
(私も伸びるかな? 伸びたらいいな…)
 元樹はにやっと笑った。
「ななはもう無理かもだけどな」
 壁に背を預けて、腕を組んで菜々花を見る。菜々花の顔が明らかになんで? と言っている。
「ななはもうおわっただろ、成長期」
「終わってないもんっ!」
「はいはい」
 こういうときは肯定しておくに限る。笑いをこらえながら菜々花を見下ろすと、菜々花は案の定納得してない顔をしていた。
「なな、最近身長伸びてないだろ」
「…うん」
(お、素直…)
 そんなことない、と否定されるかと思ったが、菜々花はうなづいた。
「なら、難しいだろ」
「…うぅ」
 反論の言葉でも探しているのか、菜々花は視線を泳がせた。
(つーかむしろ、こいつ150あるのか…?)
 菜々花は女の子の中でも低い部類に入るような気がする。ふたりの身長差は、十分頭ひとつ分あるのだ。
「やっぱり、無理かな…?」
(…反則だろそれ…)
 見上げる、というより上目遣い。
「…伸びたらいいな」
 困って困って困った末に、元樹はそう答えた。

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