The moment
「わぁ……」
やばい、完全に迷子だ。しかも最悪なことに、人の姿見当たんないし。誰かに訊こうにも訊けないじゃん!
しばらく考えた後、あたしは携帯で友達に連絡することにした。うぅ、ゆうの言うこときかないで、ひとりで歩き回ったのがいけなかったのかなぁ。
「もしもし、ゆう?」
ゆう、こと藤沢夕菜に電話したら、思いっきり爆笑された。
仕方ないじゃん仕方ないじゃん、だって転校してきてまだ二週間くらいだよ! この学校無駄に複雑なんだもんっ!
「うん、大丈夫、多分ひとりで戻れるよ」
ばいばい、って言って電話を切る。
えっと、確か突き当たりの階段を二階まで降りて……。
「ひゃっ!」
び、びっくりしたぁ……。だって、突然スライド式のドアが開いて人が出てきたんだもん。目の前に! 目の前だよ目の前!
「あ、ごめん、大丈夫?」
わ、なんかすっごい顔の綺麗な男の子。わざとなのかどうか知らないけど、ちょっと首を傾げてるのが、悔しいけど似合う。
「なんか人の声がするなぁって。こんなとこに来る人、めったにいないし、どうしたのかなって思って」
「うん、えっと、その……ちょっとね」
正直に言おうかどうか迷ったけど、知らない人にわざわざ恥さらすことないもんね。
「ふうん。もしかして君もサボり?」
え、いや、サボりって……なんでそんなナチュラルなの?
「そんなわけないじゃん!」
「そうなの? この辺に来る人は大体そうだよ」
知らないよそんなの! 来たくて来たんじゃないもん! しかもいいの、中学生でサボりなんかしてて……。
「好奇心とかだったら、やめたほうがいいよこの辺は。不良とか多いもん」
うそ、怖いっ! てかさっきあんたこの辺には人来ないってゆったじゃん! どっちなのっ? あ、もしかして、ゆうがわざわざ迎えに来てくれるってゆって
くれたの、だからなのかな?
「帰るっ!」
どっちにしろ帰るとこだったんだもん、早く教室戻ろう! もしかしたらこの子も不良なのかもしれないし!
「送ってこーか?」
「いい!」
だって、この子だって信用できないもんっ!
「ねぇ、教室帰るんでしょ、そっち遠回りだよ?」
うそ、だってゆうはこっちってゆったし! ゆった、よね? うそぉ、どうしよう。どっちが本当なの? あたしの記憶? この子の言葉?
「えっととりあえずさ、向こうだよ、一年の教室」
「ちょっと! あたし二年なんだけど!」
そりゃ、一歳の差だけど! そんなに子供っぽく見えるわけっ?
「えぇ、だって、この辺に迷い込んでるのに……あ、もしかして転校生とか?」
「そうだよ! 前までアメリカにいたの!」
パパの仕事の関係で、小学三年生のときからずっと。ちなみにゆうとは幼馴染みなんだぁ。
「わぁ、帰国女子? すっごい、英語とかしゃべれるの?」
え、何このハイテンション……。
「そりゃ、しゃべれるけど……」
「すごい、いいなぁ!」
この子、もしかして不良じゃないのかな。そんなふうには見えないし……。でも、じゃあ何でここにいるんだろ。あ、そっか、サボりってゆってたっけ……。
「ね、それで、教室って本当にこっち? 早くしないと昼休み終わっちゃうじゃん」
「んー、二年の教室だったら、こっちからでも行けるよ」
その子はそう言ってあたしが元々行こうとしてた方向を指差した。あ、よかった、やっぱり記憶違いじゃなかった。
「そっか、ありがと!」
「ね、本当にひとりで大丈夫?」
あれ、心配してくれてるのかな。授業サボるような子だけど、いい子なのかも。
でも、もしかしたらこれも罠なのかもしれないし。まだちょっと警戒。うん、いいことだよね。危機感危機感。
「大丈夫、道、友達に聞いたから!」
「そっかぁ。でも、やっぱり心配だから送ってく」
その子はにっこり笑った。
なんか嬉しい。やっぱり優しくされたら嬉しくなるよね。あぁ、あたしってば単純じゃん!
「いいの? サボるんでしょ?」
「ふふ、一緒にサボる?」
悪戯っぽいきらきらした瞳でそう誘ってくる。ちょっと乗りそうになっちゃったけど、だめだめ!
「やだよ、ただでさえ目立ってんのに、目ぇ付けられたらどうすんの」
「えぇ、いいじゃん」
その子はそう言いながら、あたしの手を引っ張って歩き出した。
「わ、ちょっと」
「え、何? 急がないと遅刻するよ?」
あぁ、あたしってば、この子に振り回されっぱなしな気がする。
「ちがぁう、動くならゆってよ、びっくりするじゃん」
「あ、ごめぇん」
あっ、全然悪いなんて思ってないな? でもいいや、なんか気分いいから許しちゃう。
あれ? 警戒心警戒心。
でもなんか、つないだ手がどきどきする。おかしいな、向こうではこのくらい普通だったのにな。
「ねぇ、名前なんていうの?」
「え、あたし?」
思わず聞き返したら、その子は楽しげに笑った。あ、バカにしてるなっ?
「違うよ、君の後ろにいる子」
えっ? あたしの後ろに誰かいた?
びっくりして後ろを振り向いたけど、誰もいない。うそ……。
「ね、ちょっと、誰もいないんだけど……」
もしかしてここ、幽霊出るとかっ? やめてよやめてよ、嫌いなんだってばそういうのっ!
「うそ、いるじゃん、後ろに」
「うそうそ、いないよ、絶対いない!」
もしかして、この子そういうの見えちゃう人っ? やめてよやめてよ、ほんとだめなんだってばっ!
あたしは思わずその子の手をぎゅっとにぎった。
「うん、嘘だよ」
「え……」
え、嘘……?
「え、ほんとがよかったの?」
「No kidding!」
あ、やば……。思わず英語だ。動揺しすぎ動揺しすぎ、大丈夫大丈夫、大丈夫だよ、あたしっ!
「あは、英語じゃん、かっこいいー」
あは、じゃないよもう! 全部全部、あんたのせいなんだからね!
「んで、君、名前は?」
「え?」
「え、じゃないよー」
あ、そっか、そうそう、そういう話だったっけ。もう、話逸らしたの誰だと思ってんのっ!
でもでも、名乗ってもいいのかな? 大丈夫なのかな?
「ひ、との名前聞くときは、自分の名前から!」
「あれ? 俺名前言ってなかったっけ?」
そしたらその子はきょとんと首をかしげた。あ、ちょっとかわいいかも。って、そうじゃないじゃん、あたし!
「言ってないよ!」
「そっか、ごめんね? 俺はね、島村雄飛」
「ゆうひ?」
Sunsetのことかな。でも確か発音違うよね。
「そう、オスメスのオスに、飛ぶって書くの。口に出したら可愛い感じだけど、漢字で書いたらちょー難しいんだよ」
「ふぅん」
説明してくれたけど、あたしにはさっぱり。とぶって、Flyかな、Jumpかな。
「で、君は?」
「あたし? あたしは田辺鈴花」
あ、普通に名乗ちゃった。ま、いっか。そこまで悪い人には見えないし。や、でもでも、人は見かけによらないとも言うよね、確か。
「すずか、ってどう書くの?」
「Bellの鈴に、花っていうのはFlowerっていう意味の漢字なの」
「えーっと、つまり、音の鳴る鈴の字に、花? 咲くやつ? 簡単なほう?」
あ、ヤバイ。なんか変な説明しちゃった。もう、あたしったら何やってんだろっ!
「うん、そう……」
「いいね、その紹介の仕方。なんかかっこいい」
うんまぁ、変な人には思われなかったみたいだし、ま、いっか。
「鈴花って呼んでいい? 俺は雄飛でいいよ」
「わかった」
あれ、思いっきり知り合いになっちゃった? もしかして。
「んー、ここまで来ちゃったし、俺も授業受けよっかなぁ」
「そうしなよ、サボりはだめだよ」
「はぁい」
あ、また悪いとか思ってないな? 雄飛って結構、わかりやすい。ってあれあれ? わかってどうすんの?
「鈴花何組?」
「二組……」
「わぁ、遠いなぁ、俺六組」
あれ? 一年って確か、五組までしかなかった気がするんだけど。え、あれあれ? もしかして……。
「……え、同い年なの?」
「え、なんだと思ってたの?」
うわぁ、やっぱり同い年なんだ! びっくりしたぁ!
「年下だと思ってた」
だってだって、子供っぽいなぁっていうか、なんていうんだろ、あ、幼い? そんな感じだったんだもん。
そりゃ、背はあたしより高いけど、向こうじゃ年下で身長高い子なんていっぱいいたし。
「なにそれ」
やだ、怒らしちゃったかな? でもなんていうか、怒っていうより、すねてる? けど雄飛は人のこと言えないよね。
「雄飛だってあたしのこと一年ってゆった!」
「それは仕方ないじゃん、状況的に」
えぇ、そういうもんなの?
「そうかなぁ」
「そうだよ」
にこって雄飛が笑う。もう怒ってないのかな。変な子。ほんと、子供みたいだよ。
「じゃあ、鈴花はあっちね、もうここからはわかる?」
「わかるよ、大丈夫」
見覚えがあるもん、この辺は。
「じゃあ、俺こっちだから、またね!」
「うん!」
って、また次があるの? まぁいいけど。多分雄飛、悪い子じゃないし。なんかおもしろいし。
ぎりぎりで教室に戻ったあたしが、様子を見てたらしいゆうにすごい顔で彼と知り合いなのってきかれたのは、次の休み時間だった。
雄飛って女の子に人気あるんだって。でもなんかわかる。Coolだもん、雄飛。
あれあれ? もしかして、すごい人とお友達になったのかな、あたし? そんなことを考えながら、なぜかあたしは迎えに来た雄飛と一緒に下校したのでし
た。
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