Spring, in the room

 おいしいケーキを出してくれるカフェがあるから行こうよ、と。三つ下の幼馴染み、中学一年生で多分反抗期もとい思春期、であるはずの彼女は、満面の笑み で言った。中学生にもなっていくら幼馴染みとはいえ高校生の男の部屋に上がるなよ、と思うのはどうやら俺だけらしい。いや、別に、彼女を特に意識している とかそういうことじゃないんだけれど、それでもだ。
「ねえ、ゆう?」
「なぁに?」
 ことんと首をかしげる彼女に思わず小学生かと突っ込みそうになって、実際に半年ちょっと前まで小学生だったと思いなおす。ちなみに背が高くて可愛い系と いうより美人系なので、黙っていればそれなりに大人っぽく見える、らしい。小学生のころから中学生に間違えられていたから、多分確実。
「ゆうさ、甘いもの苦手じゃなかったっけ?」
「うんっ!」
 えーと。んんん?
 俺の幼馴染みは、基本的にすっとぼけてる。天然とかいうかわいらしいものじゃない。これが噂のねじが足りないとかいうやつだな、うんうん。ちなみに彼 女、可愛いものや綺麗なものが大好きで、甘い物も食べるのは無理でも見ているのは好き、ただし匂いで酔うとかいう特殊体質の持ち主だ。うん、基本的におか しい。
「ほら、せっかくだから食べられるようになろっかなって」
 何がせっかくなのか少しもわからない。でも多分、意味とかないんだ。なんとなくつけたに違いない。言葉の意味がわからないとかいうことは、流石にないと 思う。気にしたら負けだぞ、俺っ!
「ねーあきぃー? 聞いてるぅー?」
「うわっ」
 考え込んでると、ゆうの傍目から見ればそれなりに綺麗な顔、がすぐ目の前で俺を覗き込んでいた。いやいや、なんでドキドキしてんの俺っ! いやいや、 びっくりしたからだろっ?
「何で驚くのぉー、ゆうの顔、そんなに変?」
「急に出てきたら驚きもするだろっ。大体お前、近いっ」
 すると彼女はくっと唇を尖らせた。
「そんなの、あきだからじゃんっ」
 は、えっ?
「あきにしかしないよ、こんなの」
 はい?
「ねぇあきぃー、カフェ行こうってば」
 いやいや、何今の。ってどうせ無自覚か。無自覚っていうか、深い意味はないんだな、うん。そりゃそうだ、ゆうだもんな。そうそう、ゆうだった。所詮。
「カフェね、まあいいけど。じゃあいこっか」
「やったぁ、あたしねー、今日新しい服おろしてきたんだー」
 ああ、なるほど。見せたかったんだな、誰かに。ついでに出かけたかったんだな。そういえば今日は髪がくるくるだ。ちなみに俺はアイロン、だっけ? とか なら許すけど、パーマも染めるのも許しません。化粧も駄目。なんでってそりゃあ……ほら、ますます大人っぽく見えるだろうし。ナンパとか痴漢とかね、危な いから。
「あきあき、早くいこー」
 ま、中身は小学生だけど。

top

2010/02/05