サファイアの空は誰が為に
日常というものは日常であるがゆえに
アッサム王国の騎士団は王城の一室に四人一組で部屋を持っている。そしてそれとは別に集会場―――とは名ばかりの溜まり場がある。
「何やってんだい?」
今は昼の休憩時で、誰も彼も昼食をとりに出て行っている。残っているほうがおかしい。
「んー? あぁ、リオリアか。姫さんに頼まれてちょっとな」
「姫さんって…あぁ、アリーシア姫か。相変わらずお人よしだね、あんたも」
リオリアは呆れたため息をついた。
騎士団団長コンスティンが手に持っているのは小さな木の箱だった。大方壊れたから直してくれとでも言われたのだろう。
「一応義妹だからな」
コンスティンが箱を持ち上げてふたになっている部分を見上げていた。どうやらうまくあかないらしい。
「何が一応だい、まったく。あんただって本当は王子なはずなんだから…」
「やめろよ、いい加減。俺にはそういうのは合わない、わかってんだろ?」
「…まぁ、そうだけどね」
リオリアはコンスティンの前に机をはさんで座った。
まさか自分の為に、なんてうぬぼれた感情は持ちたくないが、どうしても思ってしまうときがある。
「ふぅん、綺麗なもんだね。言葉遣いはあれでもやっぱりお姫さまはお姫さまか」
頬杖をついてコンスティンの指先を見つめるリオリアを、コンスティンは手を止めて見つめた。
「…なんだい」
「いや…こういうの、欲しいのか?」
カッとリオリアの頬が朱に染まる。
「何言い出すんだか…。持ってるようなタマじゃないだろ、あたしは」
ふいっとコンスティンから視線を逸らすリオリア。コンスティンは苦笑した。そして再び箱に集中する。リオリアの視線が戻ってくる事を感じたが、コンスティンは顔を上げなかった。
あともう少しだけ甘さの足りない、くすぐったいようなもどかしい空気。だが不快ではない。
しかし、そこにガチャリと扉の開く音が介入した。ハッとリオリアが立ち上がる。何もそこまで過剰感応する事か? とコンスティンは思ったが、あえて黙っておいた。
「クロス…」
リオリアの声に、コンスティンも振り返った。ふたりのいい雰囲気を壊した当の本人は、全く気に留めない様子でふたりの横を通り過ぎ、真新しいナイフをひとつ手にして出て行った。
「相変わらず、掴めない奴だね…」
リオリアが再び椅子に座った。片手で頬杖をつく。
「ああいう奴だからな。ミオじゃなくてよかったな」
「もっとひどいのはヒナだろ」
コンスティンは苦笑してそうだなと言った。彼女たちだったなら、からかうだけからかって嬉々として出て行くだろうから。
「さて、できたことだし姫さん探すか」
今度リオリアにひとつ造ってやろうと考えながら、コンスティンは立ち上がった。
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