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048　溢れた宝石
（宮野梨華→大友和真）

　かずくんは野球が上手。
　いつもにこにこしていて笑顔が素敵。なのに、バットを握るととても真剣。その横顔を見ているのが好き。でも、ホームランを打ったときの満足そうな笑顔はもっと好き。
　かずくんは優しい。
　二人の弟とキャッチボールをしている姿を見ていると、胸がほんわかするの。
　小さい子にもいつでも優しい。面倒見のいいお兄さんをいつもしてあげているのはすごいと思う。
　私に何かあったら本当になんでもないことでも本気で心配してくれる。「大丈夫？」ってちょっと泣きそうな顔で尋ねられると申し訳なくも思うけど、不謹慎な事だけど少し嬉しい。…だって、かずくんは誰にでも優しいから。
　かずくんはとてもよく人を見ている。
　いつも私のことを見ていてくれて、悩んでいたり、不安になっていたらすぐに気づいて相談に乗ってくれる。私のほうが年上なはずなのに、かずくんはとってもしっかりしているから、まるで年上みたい。
　かずくんはとても温かい。
　落ち込んだ時にそっと繋いでくれる手からは、かずくんの心が伝わってくる。隣でそっと見守っていてくれるから、とっても安心するの。直接じゃなくて、さりげなく。それが上手。すごく自然だから、私も無理しなくていいって思えるの。それがとても嬉しい。
　かずくんは人が嫌だと思うことはしない。明るくて、いつもにこにこしているから、かずくんの周りにはいつも誰かがいる。そのみんなを大切にしようとするから、たまに疲れちゃうんだよね。それでも頑張って無理に笑おうとするところは、私、好きじゃないわ。私だって、ひとつだけだけど年上だもの、少しは頼ってほしいの。私じゃ全然力になれないと思うけど、それでも。何も出来ないってわかっていても、何かしたいと思うの。
　かずくんは本当に素敵な人。私を好きでいてくれるなんて、本当だったらありえない事だと思う。それでも想ってくれているのだから、私はかずくんのことを大切にしたい。だって、かずくんは私の宝物だもの。

095 　君しか見えない
（大友和真→宮野梨華）

　宮野梨華。生物学的には人間。だけどきっと、梨華は天使なんだ。
　それは前世がそうだったのかもしれないし、死んだ後に天使になるために生まれてきたのかもしれないし、もしかしたら、梨華は本当に地上に舞い降りてきた天使なのかもしれない。
　俺がこんな事考えるようになるなんて思ってもみなかった。梨華に出会う前の俺は。女なんて自分の株を上げるための道具みたいにしか思ってなかった。実際、俺はもてたほうだと思うけど、言い寄ってくる女だったら誰でもよかったし、小学校の中学年くらいからずっと“彼女”が途切れた事もない。多分これからもずっとそうなんだと思ってたし、運命の人なんているはずないって思ってた。
　でも、梨華は違う。梨華は特別。
　天然でほややんぽぇってした梨華は、本当に天使みたい。俺よりいっこ年上なはずなのに、全然年下みたい。でも、マイペースとかとろいとかいうんじゃなくて、やる事はちゃんとやるし実はしっかりしてる。いつも笑顔でみんなの子と見守ってて、どんな小さなことでもうんうんって黙って聞いてくれる。
　梨華は俺たちの野球部のたった一人のマネージャーで、いつも俺たちを支えてくれてる。きっと俺たちの野球部は、梨華がいないとまわらない。
　誰にでも優しくて、笑顔の可愛い梨華は、小さい子供が好き。動物は苦手なのにね。慣れるまでに時間がかかるんだって。うちにもよく遊びに来るのに、うちの犬の小鈴にもまだ最初はびくついてる。慣れてきて、小鈴をぎゅうってぬいぐるみみたいに抱きしめてる梨華は、本当に可愛い。
　でも梨華はちょっと一人で頑張りすぎるとこがある。どんなに疲れてても弱音をはかないし、そういうとこすごいって思うけど、もうちょっと俺にも話してよ。男は女の子に頼られてこそのものでしょ？　なんて、こんな事考えるのも梨華だからなんだよ。
　梨華、俺ね、ほんとに梨華には感謝してるんだ。梨華に出会っていろんなことが変わった。世界の色とか見方とか、本当に人を大切にするって事がどんな事なのか。だからさ、俺やっぱり、梨華いないと駄目だよ。梨華もそう思ってくれてたら嬉しいな。

212 　絵本の中の少女
（旭川遼哉→森川美並）

　しっかりしとるのに、どっか抜けてんねん。頭のねじが、とかいうんやなくて、えぇ具合に。
　年の離れた弟たちの面倒見るために、いっつも自分が何か我慢して、看護士で帰りも遅うて夜もおらんことの多い母親の代わりに家事もやって、ひとり頑張ってんねん。父親やっておらへんから、だれにも頼ることができへん。黙って何も言わんで、なんでもないように笑う。けどほんまはしんどいはずで、けどそんなん誰にも見せへんで、どうしたらそんなに毎日頑張っていけるんか、正直俺にはわかれへん。
　けど多分、弱音吐ける相手が今まで近くに居らんかったんやろ。弟らのために早う家に帰らなあかん美並は、付き合いも悪いっちゅうことになるんやろうし、一生懸命背伸びしとるんは大人にはわかっても子供には分からん。周りからはとっつきにくい子て思われてたんやろう。
　せやから、美並は人付き合いが苦手や。なまじ自分で何でも出来てまうから、一人で何でもやるんが当たり前て思てるんかもしれへん。美並は俺より年下で、おんなじクラスに何かどうあがいたってなれへん。せやけど、今は千里も居るし、頼りにはならんけど浩孝も美並に懐いとる分一緒に居るやろ。…･･･正直ちょっとうらやましいけどしゃあない。俺もいられるだけは一緒に居るし。せやから、もうちょっとでえぇから人に頼る事を覚えてほしい。一人で頑張らんでも、一緒に荷物背負ってくれる人はおるんやて。
　美並は元からまじめやし、冗談通じんタイプや。でも、その分誠実やし、約束した事は絶対に守る。どんな小さな約束でも。あいつは律儀なんや。そういうところ、俺はえぇなって思うわ。俺は約束守らん奴嫌いやし。
　美並とやったら、一緒に居っても沈黙が怖くない。俺は口下手やし、喋るんそない好きちゃうし、うるさい奴も嫌いや。美並は、たまに何考えとるんかようわかれへん時はあるけど、俺がなんも喋ってへんでも気にせんし、しつこく何かを聞いてくることもない。そういうところが、付き合いやすい。
　美並は高校生やけど、まだ中学生みたいなとこがある。悪い意味やなくて、いい意味で。なんて言うか…純粋。男と付き合うたことないいうんもあるんかもしれへんけど、変に男慣れしてないとことか。最近はさすがに慣れてきたみたいやけど、浩孝のスキンシップにもおどおどしてんねん。…そんまえに、そんなことすなて思うけど。
　美並は親が離婚しとるせいもあるかもしらんけど、男と付き合うのが怖いっていう。やからまだ、俺とも付き合ってへん。美並がそういう考えなんやったら、尊重するんが男として当たり前のことやろ。たまにもどかしくはなるけどな。やけどいつか、もっとお互いにお互いの事よく知って、信頼とか築いて、いつか美並と付き合えたらいいと思う。きっとまだまだ先やろうけど、いつか。そうなれたらえぇって思う。

046 　月より遠くて、太陽より近い
（森川美並→旭川遼哉）

　低めの声。口を開く事は少ないけど、その声で告げられる言葉はすべて、すぅっと私の中に溶けていく。適切な時に適切なこと言うてくれる。人が言えんような忠告も、ちゃんとできる人。それはほんまに勇気のいることやし、ふつうの人には出来へん。みんな自分の事が大切で、嫌われとうないって思うから。
　こないな私を、ずっと見ていてくれる人。付き合えへんよって言うても、ちゃんと理解して、それでも、りょう君は私の隣にいてくれる。本当に優しい。
　りょう君の優しさはさり気のうてあったかい。たとえば、道を歩くとき。いつもさりげなく車線側に立ってくれる。一緒にお買い物に行ったら、重い荷物を持ってくれる。私がつらいとき、何も言わんでただ隣にいてくれる。どないな言葉もあらへんけど、どないな言葉より優しい。やから、なんも言えんでごめんななんて、お願いやから言わんといてな。
　たまに見せてくれる笑顔が好き。いっつも無表情で無口やから、なんも知らん人には誤解されるね。そういう私も、はじめは怖い人やなぁって思ってたんよ。せやけど、ほんまは全然そんな事あらへんの。ほんまはりょう君は繊細な人で、ひとりで傷ついてひとりでなんとかしようとするところがある。せやけど、それは付き合いが悪いとかいうんやなくて、人に心配かけとうないから。りょう君はお友達をほんまに大切にする人やから。
　りょう君は本気で心配して、本気で怒ってくれる。りょう君の言葉や行動に嘘はあらへん。りょう君はどうでもえぇと思う人とはきっぱり付き合わん。その代わりに、大切やと思う人には本気でぶつかっていく。一回大切やって思ったら、ずっとかわらへんの。どんなに離れても、ずぅっとその人のこと大切に思ってる。
　私もりょう君にとってのそんな人になれた事、ほんまに誇りに思うてるんよ。ありがとう。今はまだ怖いと思うてまう臆病な私やけど、いつかもっと時間がたって自分にも自信持てるようになりよったら…そのときまだ私のこと想ってくれてはるなら、もっともっとりょう君のこと大切に出来たらえぇな。今はまだ、この近くて遠い距離を保たせてください。大切なあなたのこと、傷つけとうないから。

253　君に届け
（旭川浩孝→早坂千里）

　気ぃ強い。男勝り。頑固。うっさいうっとい何考えてるのかわからへん。いっつも俺の邪魔する。なんやねんなもう!!
　千里見てたら悪いとこばっかり見えてくるねん。なんか監視されとる気分やし。ずっと近くにおったしなぁ…。多分俺、千里の事で分からん事はないで!!
　千里は…せやけど、明るくてえぇ子。やて、思うよ。うん。自分のこと飾ったりせぇへんし、誰にでも話しかける…ってこれは単に考えなしで猪突猛進で怖いもの知らずなだけやん。
　せやけど、千里はほんまに周りの意見に振り回されたりせぇへん。せやから美並ちゃんとも仲良うなれたんやし。美並ちゃんって最初はくーるびゅーてぃーで高嶺の花的存在やったもんなぁ。かわえぇのに…。
　頑固やから、自分の信じた道を突き進む。そういう時は全然周り見えんなるし、誰にも相談せずに自分で決めてまう。そういうとこ俺一番嫌いやわ。やって俺いる意味ないやんか！　そういうとこもうちょっと考えてほしいわ。心配するこっちの身になってみぃ。
　せやけど、頑張りやなとこは、すごいと思う。俺はサボりたがりなところもあるし…。絶対妥協せん。ってやっぱり頑固や。うん、決定。
　けどそういうとこ…好きやで!!

010　どれだけ手を伸ばせば届くの？
（早坂千里→旭川浩孝）

　旭川浩孝、うちの高校の王子様。優しゅうていっつも笑顔でフェミニスト。
　まぁ、確かに王子様やろなぁ。確かにかっこえぇ方やとは思うし、女好きやし。けど、いくらこいつが王子様やったって、うちは姫にはなれん。うわ、こんだけでも鳥肌立つわ。無理無理無理。キモイ。その前に王子様ってなんやねん。そんな絵に描いたような王子様なんかおったって気持ち悪いだけやんか。大体あいつ餓鬼やし。りょうには同レベルやって言われるけど、絶対あいつの方が精神年齢低いわ。
　そんなひろとは幼なじみや。さらに言うたら、ただの幼なじみ。ほとんど一緒に居る。一ヶ月も離れた事もないんちゃうかって思うくらい。ひろのことは何でもしっとる。
　夜中でもうちの部屋にもぐりこんでくる事とか。朝勝手にうちのやった宿題とっていったりする事とか。他の女の子の前では無駄に笑顔振りまいたりするんに、うちの前では笑顔ゆうより無表情。こんの似非王子が!!
　うちの友達の美並にも、りょうが居るん知っとってくっついたりするし、口説くような言葉ささやいてみたり。美並は純情なんやで、あほな事すな!!　りょうに殺されてもしらへんで?!　本気なんやないんやろ？
　時々分からんなる。こいつが好きなんは誰なんやろうって。むしろ、本気で好きな人、おるんやろか。うちは…こいつが好きや。けどそんな事言われへん。無理や。ギクシャクしとうない。それに、ひろがうちを好きなわけがない。わかっとんのに、うちはこの気持ちをどうしようもない。どうしたらええんやろ。時々ひろがあいまいな行動するからや。
　わかっとる。ひろはひとりになるんが嫌いや。いっつもかわえぇかわえぇって周りにいっぱい人が居ったからやろ。ひろは自分から何かするんが苦手や。やって、自分でもやらんでも他の人がやってくれるもんな。誰かに一緒におってもらわんとどうしてえぇかわからんねや。さらに言うたら、だれでもえぇ。りょうか、うち。もしくは美並。美並は優しいから、何時間やったって一緒に居ってくれるもんな。
　ひろ、ひろは本当に誰でもえぇの？　ひろには誰にでもよくても、うちはどうしたらえぇんかわからん。たすけてよ、ひろ。

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